マネキンの全て

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マネキンのすべて 続編1996年〜2000年

マネキンミュージアム

ビジュアルマーチャンダイジング─VMDの実践

マネキンの企画から展開までのプロセス(1)[コムサストア](2000年〜/マネキン制作:株式会社トーマネ)
企業理念を体感させる、店舗を超えた空間の創造へ

店舗における、顧客の関心を引く初見の魅力、購入動機を高める具体的な生活提案、商品陳列から購入へと導く明快な視認性、 これら商品と顧客を繋ぐための視覚的表現方法や工夫が、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)と呼ばれる。長期にわたる厳しい経済環境のもと、 顧客の笑顔と感動を求め、オリジナルマネキンの大量展示による新たなVMDへと果敢に取り組んだ『コムサストア』は大きな話題となり、新聞紙上でも“VMDの生きた教科書”と高く評価された。

独自のブランド力を表明するため、ショップコンセプトの具現化を徹底。

『コムサストア』は、日本の大手アパレルメーカーである株式会社ファイブフォックスが、2000年に立ち上げた自社ブランドの総合ショップである。
基幹ブランドにファミリー向け『コムサイズム』を始めとし、お洒落雑貨の『モノコムサ』などから、マタニティー、メガネ、カフェに至るまで、多彩なブランドを擁しており、これらを“「日本の生活」をテーマにストア編集”したのが『コムサストア』。
ファイブフォックスの上田稔夫社長は『繊研新聞』によると“エンターテインメント性を持たせて、お客が驚いてくれるような店”と『コムサストア』のコンセプトを表明し、“日本の文化を切り口に表現すれば世界から注目される”と語った。
『コムサストア』は、これらのコンセプトを徹底的にVMDで具現化した。

商空間を超える驚きと共感を生んだ、群像のリアルと造形の象徴化。

背丈も表情も一目見て日本人と認知される見慣れないマネキンをズラリと並べた演出は、ディスプレイとして奇異なイメージのようでありながら、実のところ日本人としては、学校やグループ旅行などでお馴染みの記念写真的な情景である。
また広い店内に点在して、親しみの持てる身近な家族の生活情景が演出される。
日本人の多くが、それを日常における幸せの一場面として受け取れるハレとケの表現。それを堂々と提示することで、顧客に新たな驚きと共感を生み出した。
群像はむしろリアルであり、マネキンはシンプルに象徴的な造形となっている。

ファイブフォックスの店舗空間デザイナーによるイメージスケッチ

2001年『キャナルシティ博多』でのオープン時ディスプレイ

2001年『キャナルシティ博多』でのオープン時ディスプレイ

2001年『ヨドバシ梅田』でのオープン時ディスプレイ

2001年『ヨドバシ梅田』でのオープン時ディスプレイ

2001年『ヨドバシ梅田』でのオープン時ディスプレイ

2001年『ヨドバシ梅田』でのオープン時ディスプレイ

2002年『旭川エスタ』でのオープン時ディスプレイ

2002年『旭川エスタ』でのオープン時ディスプレイ

細かなこだわりから生まれた日本の生活と家族の理想像

あくまで『コムサストア』オリジナルにこだわったマネキンの開発とは、今の日本人とその文化を体現する全く新たなマネキンの開発、ということであった。
そしてそれは、顧客たちのささやかな理想を描き、日常における小さな幸せに気付く、夢と癒しの仕掛け作りとなった。

多彩な家族構成を演じたのは、総数二千体以上のオリジナルマネキン。

『コムサストア』が立ち上がってからおよそ一年半を経過した2001年11月、『キャナルシティ博多』と『ヨドバシ梅田』での開設から登場することとなったオリジナルのマネキンキャラクターは、架空に設定されたひとつの家族だった。
ファイブフォックスの本部、社長室アートディレクションにおける店舗空間デザイナーグループによって、自社ブランドのラインナップをもとにユーザーを想定し、理想としての典型的な日本人家 族像が紡ぎ出された。
父と母、長男長女に次男次女、赤ん坊に祖父と祖母、そこに飼い犬という構成で、日本中の様々な家族が演出される。
『コムサストア』は2000年の新宿(500坪) を皮切りに、同年神戸(1100坪)、翌2001年に町田(713坪)、博多(2400坪)、大阪(3000坪)と立て続けに開設されて、その後も全国へと展開し、現在では10店舗を数える。
その広大なそれぞれのフロアでは、さながら様々なミュージカルを演じるように家族のマネキンが各所に配置され、顧客はその舞台へと迷い込んだ観客となって、マネキンと共に微笑み、友達として遊び、家族を思いやる気持に満たされた。
そこでは店舗がその枠を超え、驚きと共感に溢れる劇場として生まれ変わった長年培ったクライアントとの実績が、新しいマネキンとVMDを実らせた。

そもそもオリジナルマネキンの開発には膨大な時間と経費を必要とするが、この『コムサストア』での本格デビューに先立ち、既に『コムサイズム』において5年前から開発は進んでいた。
ふくらはぎにパイプを飲み込ませ、足先も無くすことで靴を自由にコーディネイトしつつ真っ直ぐに自立できるスタンドの設計から、首と腕の関節をどこまで可動にできるかを追求し続け様々なポーズを可能にし、何よりも、顔のエッジを削いで、のっぺりとした日本人らしい親しみの持てる表情の試行錯誤を重ねた。
ファイブフォックスのアートディレクションとトーマネの原型作家は、長年に渡り一丸となってオリジナルマネキンに取り組んだ。このコラボレーションによってこそ、新たなVMDの創造が可能となった。
一般に顔付きマネキンはイメージを固定してしまうため、個性の際立った高級ブランドなどと違いファミリー向けブランドでは敬遠されがちだったが、そこを逆に徹底することで希有な成功を遂げた。

時代の変化で常に必要とされるのは、俊敏な対応と誠意ある造形。

このマネキン演出、VP(ビジュアルプレゼンテーション)は、ブランド担当のビジュアリストにより2週間というサイクルによって更新し続け、顧客の興味を途切れさせない。
各店舗にもビジュアルチームが配置されており、外注に頼らず自らがVP運営に携わることで、細かなフィードバックを本部へ送り返すことが可能となる。
このように、徹底したVMDを実現する体制によって、マネキンも恒常的な変化を要求され続けた。『コムサストア』のために開発されたオリジナルマネキンだからこそ、『コムサストア』の進化にあわせたマネキンの進化も必然となる。
マネキンの頭は取り替え可能となり、青年マネキンも追加、子供マネキンには身長種も増え、表情に泣き笑いのバリエーションが加えられ、さらに、よりリアルな別シリーズも登場するなど、時代の変化へ俊敏に対応し、技術を尽くした誠意あるマネキン造形がそれに応えた。

ファイブフォックスの店舗空間デザイナーによるイメージスケッチ

ファイブフォックスの店舗空間デザイナーによるイメージスケッチ
長女

ファイブフォックスの店舗空間デザイナーによるイメージスケッチ
次男

ファイブフォックスの店舗空間デザイナーによるイメージスケッチ
次女

ファイブフォックスの店舗空間デザイナーによるイメージスケッチ
長男

フォックスの店舗空間デザイナーによるイメージスケッチ
コムサストアファミリーファイブ

ファイブフォックスの店舗空間デザイナーによるイメージスケッチ
祖父

ファイブフォックスの店舗空間デザイナーによるイメージスケッチ
祖母

フォックスの店舗空間デザイナーによるイメージスケッチ
ママ・ベイビー

パパ
ヘッドのマスター原型(ヒゲ無し)

パパ
ヘッドの粘土原型

長男
マスター原型

長女
粘土原型

長女
マスター原型

長男
粘土原型

マスター原型
ポチ

祖母
ヘッドの粘土原型

祖母
ボディの粘土原型

祖父
ボディの粘土原型

ヘッドの粘土原型

ママ
ヘッドの粘土原型

マスター原型(ベイビー)

2002年『旭川エスタ』でのオープン時ディスプレイ