マネキンの全て

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マネキンのすべて

ア・ラ・カ・ル・ト

マネキンは、都市空間の石仏?

フォトグラファーの石山貴美子さん

「マネキンの歴史展」を見て、美しいと思うと同時に強い魅力を感じたのをキッカケに、誘発されるようにマネキンを撮り、個展を開催したのが、フォトグラファーの石山貴美子さん。

仕事としてポートレートを撮ることが多かった彼女は、表情だけではなく心をも撮りたいと思い続けてきたが、それは不可能なのではないかという不安も抱き続けていた。また当時は、身近な友人を亡くし命のはかなさに打ちのめされるような空虚な心を抱いていたなど、いくつかの要因が重なったこともあったようだ。

マネキンに出会い「ただの無機質な物体ではなく、空しさを覚悟のうえで生きているような意志的なものを感じた」そして「石仏でも良かったのかもしれません。ただ私の場合は、マネキンに呼び掛けられたような気がしましたし、乾いた心にフィットして・・・・・」だから仲間意識のような心の交流と居心地の良さを感じながら、マネキンの倉庫に通い、夢中で撮影したという。結果が95年3月、銀座・巷房での発表。「これからもマネキンを見守り、撮り続けたい」という石山さん。

マネキンに魅せられた1人のようだ。

裸が一番美しい… 映画《プレタポルテ》

一糸まとわぬモデルたちが、堂々と真っ正面を向いてステージの上を歩いてくる。それが、映画《プレタポルテ》のしめくくりだ。

ソニア・リキエル、ゴルティエ、フェレ、ラクロアといった本物のトップデザイナーに、本物のスーパーモデルたち。その上、ジュリア・ロバーツ、ソフィア・ローレン、口ーレン・バコール、マルチェロ・マストロヤンニ・・・・・豪華なキャストが勢揃い。プレタポルテ・シーズンのパリを舞台に繰り広げられる人間ドラマを面白く見せてくれる。

そのドタバタ劇のフィナーレに用意されたのが、アヌーク・エーメ演ずるベテランデザイナーのコレクション会場。世界中のジャーナリストたちが見守る中で、彼女が発表した新作は人々の度肝を抜いた。裸である。古くて新しいファッション、それは女体そのもの・・・奇才アルトマン監督がファッション界に下した結論は、強烈な風刺の一撃。

実際のコレクション会場の撮影にも協力したデザイナーたちにとっては、とんだ結論というわけか、話が違うと怒った人もいたとささやかれている。

販売員が不要になる?

「心拍数や呼吸数、血圧などをコンピューターで制御し、ショック状態も自由に起こせる。治療が適切なら、回復するが、不適切だと悪化、死亡してしまう」といった麻酔事故などを仮想体験できるハイテクマネキンが実現化されているという。

医療用マネキン
医療用マネキン/1995・6・21朝日新聞より

右は、1995年6月21日付の朝日新聞に掲載されていたものだ。

ムムム・・・。ハイテク技術は、ここまで進んでいるのか、と改めて目を開かせられた。

とすれば、ファッション・マネキンだって、コンピューターを内蔵するコストを度外視すれば、単に「いらっしゃいませ」の言葉を発するだけではなく、身長、体型をはじめイメージ、好みの色や服のタイプなど、ファジーな部分の情報までインプットして、お客様に相対したときに、お客様の二ーズを察知・選択して薦めるマネキンだって不可能ではないのだと思ってしまった。

となると、販売員は不要になってしまうのか。と次々と連想は、波及していく。

でもね。医学界で「患者の急変に強い医師を養成する」ためならいいけど、心を豊かにするための売り場では、やっぱり「キモチワルイナー」と思ってしまうのですが・・・・・

それぞれの視点

「幼稚園児くらいの子供の反応が面白く、一度話してみたいと思いつつ、作業中のことなので果たせないでいる」というのは、デコレーターの鶴崎礼子さん。

ヌード・マネキンをショー・ウィンドーや店頭に置いたときの一般的な反応として、男性は見て見ぬふりで取り澄まして行き過ぎる。女性は、無関心派と「かわいそうだから早く服を着せてあげて」という人との二極化。これに対して、子供は、目を真ん丸くして好奇心を剥き出しにしてジッと見守ることが多いとか。

もっとも大人の男女といっても、写真集などで裸を見慣れている若い世代は、ほとんどが無関心だという。

近年は、路面店でマネキンを使用する所が減少したり、閉店日や夜中などの改装で、子供達がヌード・マネキンに接する機会が失われている。

もし、旺盛な好奇心を潜在させている子供達が幼い頃からマネキンに接していたら…

「やっぱり、社員のひとりヨ」

「さぁ。今シーズンもガンバッテね」。シーズン立ち上がりのディスプレイを完了した某専門店の女性オーナーは、マネキンに向かって声をかける。

マネキンは社員のひとり

昔からの習わしになっているという。

「犬や猫でも声をかければかけるほど賢くなるし、植物だって話かけてあげた方が成育がいいっていうでしょう。ましてや大事な商品を着て店頭に立ってもらうマネキンですもの。大切な社員と同じヨ。自分の気持を引き締めるためもあるけど、声をかけないと心なしかマネキンの元気もなくなるような気がする」という。

東京近郊にある女性のべター・ゾーンを扱う路面店。昨今の状況の中では、もっとも“キビシイ店”の代表的存在だ。そんな中にあっても安定した経営で、生き残っているのは、きっとオーナーの細やかな心くばりと暖かい人柄なのではないか、と改めてナットクしてしまった。